「山梨県の森の旅~サル追い 甲斐けもの社中編」@南アルプス市

さる追い

森と人が共生するのに、今もっとも深刻な問題は「獣害」です。

古代日本では「奥山」とされた人の立ち入らない山が森林のほとんどを占めていました。

そこは動物達が暮らし、マタギなどの一部の人のみが入る場所でした。

人々は「里山」で、薪、炭、山菜、キノコなど、様々な自然の恵みをもらい

動物もまた時々「里山」までは来ることはあっても、その先の「人里」まで降りてくることは滅多にありませんでした。

「里山」は、動物の住む「奥山」と人の住む「人里」の間の緩衝地帯だったのです。

現代では、奥山だったはるか先まで人は入り込み、人が使う為のスギやヒノキを植えました。

現在、日本の森林面積の約40%が人工林と言われており、その8割が未整備という現状だそうです。

人の植えた人工林は、スギやヒノキなどの単一種での植林が多く、手入れをしないと光が入らない為、下層植生を始めとした他の植物も生えにくく、動物が食べられるものが生えない。

なおかつ様々な植生の根によるグランドカバーが乏しい為、土壌流出も進むのです。

こうなると動物達は、森の中で住める場所が少なくなり、食べるものも少ないという現状になります。

最も問題なのは、天敵の不在です。

シカ、イノシシ、サルなどは、本来その天敵であるオオカミの絶滅などにより、個体数が増えすぎています。

このことから、動物たちは、人里に降りてこざるを得ないのです。

一方、人間の側からすると

シカが植林した木の皮を食べてしまう→材の品質に深刻なダメージ。

イノシシが、畑を掘り起こす。

サルが果樹園などの作物を食い荒らす。

など、農村の産業に深刻な問題となっています。

今回はこの「獣害」問題を、サルの問題に絞って、偶然立ち合いました特定非営利活動法人「甲斐けもの社中」の皆さんのサル追いを中心にレポートさせていただきます。

サル追いの甲斐犬。
画像はサル追いの甲斐犬ナツメさん。

「サルを鉄砲などで追い払う」

「サルの頭数を減らす」

こういうことが、どうして思うほどの効果を得ないのかについて、甲斐けもの社中の山本さんがこうおっしゃっていました。

「サルにはいくつかの群れがいて、それぞれがテリトリーを持っている。一つの群れを追い払っても、他の群れのテリトリーに阻まれて、またこちらに戻ってきてしまう」

「大切なのは、サル達にどんな群れがいて、どんなテリトリーで、どんな行動パターンなのかを人間側が把握していること」

「そうすれば無用な殺生もせずに、群れの行動に対し、事前に対策が打てる。サルとヒトの共生も模索できる」

この日は朝から、サルの囲い込み柵のペンキ塗り。
偶然友人のHさんから頼まれて手伝いに行くことになりました。
サルの囲い込み柵
サルの囲い込み柵2

友人のHさん。彼女はアメリカの大学で野生動物の研究をしています。現在インターン中。
彼女が座ってるのは、なんとツキノワグマの罠。
熊用のワナ
ドラム缶でできているんですね。

炎天下の中、歌をうたいながらペンキを塗っていると、山本さんから「サルが罠にかかった」との連絡あり。

せっかくなので、現場を見せていただくことになりました。

南アルプス市高尾付近。すでに路上にサルの群れが。
路上でサルの群れに出会う。
小さいので若いサルが多いように思います。熱心に観察する山本さん。

そして、罠をしかけたところに行ってみると、確かにサルが捕まっています。メスのサルでした。
サルが捕まっています1
サルが捕まっています2
誘因物は何か聞いてみたら、スモモとのこと。やっぱりサルも大好きなんですね。

ここからは少しかわいそうな画像ですが、サルには少し我慢していただいて…

まず、罠の檻からゲージに移ってもらいます。
折からケージに移す。

この時に、もちろんサルは全力で逃げようとしますから、すごい力がかかります。
なんとゲージに入らずに一度外に出てしまう事件発生。

山本さんは、咬まれないように、首根っこを掴んで捕まえました。
(どんな動物でも、一番安全なのは首根っこなんですね)
さる追い

何とかゲージに入ってくれたサル。
ゲージの中のサル。1

かわいそうですが、麻酔を打ちます。
麻酔を打つ。

麻酔後のサル。

麻酔を打って、眠っている間にデータを取ります。
体長、体重、腕の長さ、胸囲などから、しっぽの長さまで。

体重は思ったより重く、5kg以上ありました。

そろそろ、麻酔が切れかけて、目を覚まして来ています。
目を覚ますサル。

最後に、首輪型のGPSを付けます。
これは、480日間電池が持つので、その間居場所を発信し続け、その後勝手にい外れる仕組みだそうです。
成長しても首が閉まらないように、指二つ分の隙間を空けて付けます。
GPS装着。

麻酔が切れてから逃がします。
逃がしてあげます。
一目散に逃げていきました。

これで群れに戻ったあと、その群れの動向をGPSで受信することができます。
新聞記事。

サルの側も賢くなってきていて、ハッピートラップ(逃がしてくれるのを分かっているので、エサを欲しさにわざと罠にかかりに来る。この場合、前と同一個体がかかるので調査の意味がない)や

鉄砲を撃っても空砲だとわかっていて効果がなかったり。

様々な対策をこれからも考える必要があるのです。

これまでは僕は、獣害対策というと、シカやイノシシの肉を流通させ消費する、くらいしか想像していませんでしたが、甲斐けもの社中さんのように、そもそも何が原因なのか、を広い視野で研究し応用する方法があることを知り、大変勉強になりました。

そして

「獣害に悩んでいるのは、高齢化の進んだ過疎地域の方です」

「大きな防護柵を設置するなど、現地の人たちが維持管理できないような方法を押し付けてしまいがちです」

研究する側は、それを応用できる術まで含めて進めていく必要があると分かりました。

まさに、過疎地域の高齢者と共に実践できる方法です。

そんなお話と共に、貴重な体験をさせていただきました。

甲斐けもの社中の山本さん、Hさん、ありがとうございました。


さあ、次回の気になる森の歌会は

【山梨】野生のシカとシラカバの地★7/16(土)〜17(日)「森の歌会 清里キャンプ」@北杜市

親子でも、日帰りでも参加できますよ。詳しくはお問合せください。

【森のシンガーソングライター証(あかし)プロフィール】

森の中で、歌を聴こう。

「森と歌を繋ぐ専門家」として、日本全国の森で、森の歌ライブを展開しています。
森の景色、森の音、焚き火、ナイトウォークなど、様々な自然体験と共に、森の生き方から学ぶ人の生き方を、音楽と共にお届けします。

本名 山田証。東京都多摩市在住。シンガーソングライターとしても活動の一方、自然科学にも興味を持ち、林業、造園業、環境教育、インタープリテーションの手法を学ぶ。

2008年「エデン風景」がFM福井主催、福井ホームタウンソングコンテストでグランプリを受賞。
2010年「雨粒ノック」が、エコジャパンカップカルチャー部門エコミュージックにてCMディレクター中島信也氏による「中島賞」を受賞。
2014年 「地球ワット」が、同コンテストにてグランプリを受賞。ミュージシャンとしては初の二度の受賞を達成する。

国土緑化推進機構の機関紙「ぐりーん・もあ 2015 vol.70 夏号」にも登場。

森林インストラクター(全国森林レクリエーション協会)

森の歌会 vol.19 あの山に登ろう

証の音楽はこちらから聞いてみてください。「パイオニアソング」

森の生き方を知ると、あなたの生き方が変わる。7月は静岡、8月は栃木、群馬で、9月は北陸で、森の歌会のご依頼を受け付けております。1本の木があれば、深い自然を歌と共に感じられます。自然体験団体、森のようちえん、子育て支援、福祉施設様など、体験内容や料金も応相談!

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